生活インフラの維持に欠かせない現場の担い手「エッセンシャルワーカー」の不足が顕在化している。
栃木県足利市では2025年6月から利用者が自ら水道メーターの検針を始めた。
住民に専用スマートフォンアプリを使ってメーターの撮影・送信をしてもらう。
市は3年後に市内7万カ所のメーターの15%をセルフ検針に切り替えたい考えだ。
検針作業員の過半が60歳以上と高齢化が進み、新たな人材確保も難しいためだ。
記事
2025年12月4日付日経記事「〈労働臨界〉バスもゴミ収集も人手不足 エッセンシャル職、都市部でも高齢化」によれば、
「生活インフラの維持に欠かせない現場の担い手「エッセンシャルワーカー」の不足が都市部でも顕在化している。
バス事業者では大手でも担い手の高齢化が進み、東京都内の主要バス事業者の走行距離は2019~24年度までの間に17%減少した。
エッセンシャル職の現場に若手を呼び込むには生産性の改善が欠かせない。
人口約75万人の東京都練馬区。都内有数の約160系統のバス路線があるが、近年、国際興業や西武バスなど大手が相次ぎ路線廃止や減便に動き、人口の2割超を占める65歳以上の高齢者の活動範囲を狭めている。
一人暮らし不安
通院や買い物にバスを使う80代の女性は「バスが1時間5本から3~4本に減って外出の機会が減った。一人暮らしに不安を感じ、引っ越した友人もいる」と話す。
練馬区だけではない。国際興業では24年度、公共交通の移動手段がない交通空白地化を避けつつも、足立区や埼玉県を含めて6路線を廃止せざるを得なかった。
国際興業が運行する路線は600以上。運転手確保のため、65歳以上を対象にフルタイムより勤務時間が3~5割短い働き方を導入した。短時間勤務で働く66歳の谷川光彦さんは「顧客を安全に運ぶ使命感が働きがい。少なくとも70歳まで乗務を続けたい」と話す。
エッセンシャル職の現場は急速に高齢化している。
福岡県などでバス事業を展開する西日本鉄道では約2000人の運転士が在籍するが、過半数が50代以上。年300人程度が定年退職を迎え、35年には人員が4割近く減少する恐れがある。運転手の不足から3月のダイヤ改正で平日の路線バスを413便減らした。
首都圏で電気設備の維持・管理を手掛ける関東電気保安協会(KDH、東京・港)では、10年以降のビルやマンションの建設ラッシュなどで、管内の高圧電気設備が2割程度増える一方、資格取得者を十分に採用できていない。足元では東京都内の官公需について新規の応札を見送っている。
産業機器管理のマイスターエンジニアリング(同・千代田)によれば、鉄道や医療など主要14インフラの電気設備は20年時点で管理要員が9%不足。さらに40年には不足率が46%に達する見通しだ。「深刻な人手不足が続けば病院などで大規模停電が起きかねない」(KDHの柳田智氏)
行政サービスの現場でも若者が集まらない。
代表的なのが家庭ゴミの収集だ。
週6日勤務が珍しくなく、炎天下での作業も多い。都内の主要収集業者に運転手や作業員を派遣する新産別運転者労働組合(新運転)東京地方本部では約2000人の組合員のうち、毎年1~2割が離職する。
高齢化が加速する地方はより深刻だ。
北海道室蘭市では過去10年で戸別収集が必要な高齢世帯の増加などで収集場所は約500カ所増えた。市は今夏、将来の人手不足を見据えて一部地域で約300カ所あった収集所を約70カ所に集約した。市内の訪問介護事業所の担当者は「積雪期などは負担が大きい」と話す。
住民が水道検針
栃木県足利市では6月から利用者が自ら水道メーターの検針を始めた。住民に専用スマートフォンアプリを使ってメーターの撮影・送信をしてもらう。市は3年後に市内7万カ所のメーターの15%をセルフ検針に切り替えたい考えだ。検針作業員の過半が60歳以上と高齢化が進み、新たな人材確保も難しいためだ。
国民経済計算を基に23年の業種別の時間当たり労働生産性(実質)を分析すると、運輸や建設は全体平均の7割、保健衛生は6割、宿泊・飲食は5割と、エッセンシャル職主体の業種ほど低い水準だ。賃上げや自動化投資の遅れが響いている。
エッセンシャル職は必要不可欠な存在にもかかわらず低い労働条件に甘んじてきた。労働供給が需要を恒常的に下回るようになった今、シニアのやりがいだけに頼り、正当な評価とふさわしい処遇がなければ日本の生活インフラは崩れ落ちる。」