トランプ氏に破壊されるFRBの信認

トランプ米政権によるパウエルFRB議長への圧力は、司法当局まで加わる異常な事態に発展した。
ホワイトハウスは19世紀に中央銀行トップを刑事訴追したことがある。中銀である第2合衆国銀行は1836年に免許を失って消滅した。
米国は中銀が消滅した直後の1837年、4割の銀行が閉鎖に追い込まれる金融大恐慌が発生。FRBが発足する1913年までに計7回も金融危機に見舞われた。
FRBの独立性が重要視されるのはその教訓からだが、今や風前の灯だ。
記事
2026年1月13日付日経記事「トランプ氏に破壊されるFRBの信認 通貨・金利、崖っぷちの番人 ワシントン支局長 河浪武史」によれば、
「トランプ米政権によるパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長への圧力は、司法当局まで加わる異常な事態に発展した。
ドル円相場や銀行間市場には既に長年のゆがみがある。「市場の番人」の信頼が破壊されれば、通貨や債券、株式相場に失速リスクをもたらす。
中央銀行消滅で7回の金融危機
ホワイトハウスは19世紀に中央銀行トップを刑事訴追したことがある。
ポピュリストとして知られたジャクソン大統領(当時)が、中銀である第2合衆国銀行を特権組織と敵視。同行は1836年に免許を失って消滅し、同行のビドル総裁も後に逮捕された。
トランプ氏が「米国民の権力を取り戻すべく戦った」と英雄視するのが、そのジャクソン元大統領。刑事捜査にまで踏み切ってパウエル氏に強烈な圧力をかける現政権の姿は、200年前の中銀との対立劇の焼き直しである。

米国は中銀が消滅した直後の1837年、4割の銀行が閉鎖に追い込まれる金融大恐慌が発生。FRBが発足する1913年までに計7回も金融危機に見舞われた。現在の金融市場も中銀マネーが支えており、トランプ氏の過剰な攻撃は相場失速のリスクがある。
FRBのマネー供給に過熱感も
FRBの資金供給量(M2)は22兆ドルと、新型コロナウイルス危機時の大規模緩和時を超える。S&P500種株価指数の予想PER(株価収益率)も22倍と、2000年のドットコムバブル期末期に並ぶ。過熱気味の投資マネーが逆回転すれば相場を維持できない。
米国債もギリギリのバランスの上にある。
発行量は40兆ドルに迫り過去最大。米国債市場はヘッジファンドが少額の証拠金で巨額売買を仕掛けるレバレッジ取引の色彩が強い。FRBが市場操作に失敗すれば米国債には急落リスクがある。

基軸通貨ドルの投資家離れの懸念もある。
とりわけドル円相場は日米金利差が大きく影響し、FRBの政策シナリオが見えなくなれば乱高下のリスクが否めない。数十兆円単位とされる「円キャリー取引」が巻き戻されれば、円急騰の可能性すらある。
次期議長の条件は即座の利下げ
トランプ氏は11日の米NBCの取材で刑事捜査について「その件は知らない」と関与を否定した。逆にパウエル議長は「これは金融政策が政治的な威嚇に左右されることになるのかという問題だ」と政権批判に踏み込んだ。両者の発信は異なるが、問題は金融政策への市場の信認が維持できるかどうかである。
トランプ氏は議長人事を通じてFRBを直接動かせる。同氏は「次期FRB議長の条件は即座の利下げ」と公言しており、市場は次期議長に政策運営の独立性をみないだろう。トランプ氏に背けば刑事訴追のリスクまであるなら、なおさらである。
1970年、当時のニクソン大統領は自ら指名したバーンズFRB議長に金融緩和を迫った。FRBはその後の2年で政策金利を5%強も引き下げ、72年のニクソン氏再選に貢献した。
ところが73年にインフレ率は9%近辺まで急上昇。80年代まで高インフレは収まらず大きな代償を支払うことになった。
金融政策への政治介入は、19世紀の金融恐慌と20世紀のインフレという2つの大きな失敗を招いた。FRBの独立性が重要視されるのはその教訓からだが、今や風前のともしびだ。」
(関連ブログ)
FRBパウエル議長、刑事捜査の対象に - DIE WITH ZEROの資産運用日記