遠のく「夢のマイホーム」

2025年1〜6月の新築マンション平均価格は、東京23区で1億3064万円と前年同期比で2割上昇した。
かつて住宅価格の目安は「年収の5倍」とされていたが、新築マンションの平均価格(70平方メートル換算)の「年収倍率」は、23年の全国平均が10.09倍と調査開始以来初めて10倍を超えた。都道府県別では27都府県で前年を上回り、東京都は約18倍だった。
戸建て住宅も値上がり傾向が続く。首都圏の新築戸建ての平均価格(敷地面積50平方メートル以上100平方メートル未満)は5年前より1000万円以上高い5000万円台半ばで推移する。
記事
2025年9月28日付日経記事「遠のく「夢のマイホーム」 マンションは年収の10倍、持ち家政策に転換期 Inside Out」によれば、
「都市部を中心に「夢のマイホーム」が遠のいている。
終身雇用を前提に、結婚すればマイホームを購入し、退職までに住宅ローンを払い終える――。そんな従来型モデルは住宅価格の高騰や単身世帯の増加、低迷する実質賃金により崩壊した。
日本が戦後続けてきた新築優遇の持ち家政策も「建て替え」の時期を迎えている。
「このままでは普通の人が住めない街になってしまう」。
東京都千代田区の樋口高顕区長は危機感を募らせる。マンション価格の高騰や家賃の値上がりを受け、区は7月、不動産大手が加盟する不動産協会(東京・千代田)に、転売規制の導入を要請した。
同協会は9月、「投機目的の短期転売を抑制するための対策が必要」との見解を示した。一部のデベロッパーは一定期間の転売を禁じるなど対策に乗り出している。ただ、建築費増に加え海外でダブついたマネーの流入も続く。価格が落ち着く道筋は見えていない。

不動産経済研究所(東京・新宿)が発表した今年1〜6月の新築マンション平均価格は、東京23区で1億3064万円と前年同期比で2割上昇した。
東京カンテイ(東京・品川)によると、新築マンションの平均価格(70平方メートル換算)が平均年収の何倍かを示す「年収倍率」は、23年の全国平均が10.09倍と調査開始以来初めて10倍を超えた。都道府県別では27都府県で前年を上回り、東京都は約18倍だった。
戸建て住宅も値上がり傾向が続く。東京カンテイの調査では、首都圏の新築戸建ての平均価格(敷地面積50平方メートル以上100平方メートル未満)は5年前より1000万円以上高い5000万円台半ばで推移する。
かつて住宅価格の目安は「年収の5倍」とされた。1992年に宮沢喜一内閣が閣議決定した「生活大国5か年計画」では「勤労者世帯の平均年収の5倍程度を目安に良質な住宅の取得が可能となること」を目指すとした。
振り返れば、日本は高度成長期から一貫して中間層に新築住宅の取得を促す「持ち家政策」を進めてきた。戦後の住宅難を公営住宅や日本住宅公団による賃貸住宅の大量供給で乗り越え、60年代半ばに持ち家優遇へとかじを切った。
政治学者の砂原庸介・神戸大教授は「日本の持ち家社会は制度的なものだ。賃貸に住み続けるのは不利で、多くの人が新築で持ち家取得を選択した」と指摘する。
具体的には、住宅ローン融資を拡大し税制面でも新築を優遇した。経済刺激策としても重要だった住宅は「一生で最大の買い物」となり、企業の安定的な雇用も購買意欲や返済計画を下支えした。
持ち家政策は今も続いている。例えば、住宅ローン控除だ。省エネ住宅やZEH住宅など項目ごとに、住宅購入から最長13年にわたって1年最大35万円の控除を受けられる。不動産取得税や固定資産税の軽減措置もある。
2019年に金融審議会の報告書で指摘されて話題となった「老後2000万円問題」も、多額の住宅費がかからない前提だった。
ただ、社会は変化し、購入者の条件は瓦解している。経済の停滞などで雇用は不安定になり、未婚化や晩婚化で単身世帯が増えた。
結婚したらマイホームを買うというストーリーが崩れ、新築住宅の着工戸数は年間約80万戸と最盛期の半分以下となった。
住宅政策に詳しい摂南大学の平山洋介特任教授は「今は中間層でさえ家を買えない社会になってしまった」と語る。より多くの人が恩恵を受けられる政策への変更が迫られているのは確かだ。
日本と同様、住宅が高騰し、一般の人の手に届きにくい国の一つが英国だ。「UBSグローバル不動産指数」の24年版によると、ロンドンの住宅の年収倍率は12倍で、東京(14倍)やパリ(13倍)に次ぐ高い水準にある。
英国政府が注力するのは、手ごろな金額の「アフォーダブル住宅」を官民連携で供給する仕組みだ。開発業者への支援や規制を駆使し、売価や賃料を市場価格の80%程度に抑える。
フランスはより直接的で、低所得世帯の約5割が政府から住宅手当を受けている。
欧州には公営住宅が充実している国も多い。住宅総数に占める公営住宅の割合は、オランダが30%超と高く、英仏も10%を上回る。公営住宅に国民の8割が住むシンガポールでは、公営住宅の売買も可能にしている。
平山氏は「日本では親の持ち家がセーフティーネットの役割を果たしてきた」と話す。ただ、今後は家を持たない親も増える。持ち家でも賃貸でも、理想のマイホームをどう身近にするか。住宅施策の再建が求められている。
〈Review 記者から〉住宅政策、多様な選択肢を
新築優遇の持ち家政策に代わる選択肢として、有力なのはまず中古住宅の流通促進だ。
総務省の住宅・土地統計調査によると、23年10月時点の総住宅数は6504万戸で、そのうち900万戸が空き家だった。空き家数はこの30年で倍増した。
新築への偏重が続いた日本では、住宅投資に占めるリフォームの割合が低い。平山氏は「中古住宅に手を入れて価値を維持すれば、流通量も増える。リフォームを政策として支援すれば、高い経済効果を生む」と指摘する。

手ごろな家賃で住めるアフォーダブル住宅の供給も候補となる。
東京都は制度が充実するニューヨークやロンドンを参考に検討を進めている。民間と連携して総額200億円規模のファンドを立ち上げ、子育て世帯などに市場価格より安く住宅を提供する計画だ。空き家の活用も想定している。
「都の政策だけでは供給規模が少なく、市場に与えるインパクトは小さい」という意見もある。ただ、都は容積率など建築基準の規制緩和を通じてアフォーダブル住宅の供給を誘導する手法を模索しており、国や他の自治体にとって参考となる点は多い。
国や自治体の財政が厳しいなかで、新たな公営住宅の建設や一旦支給すると打ち切りが難しい家賃補助の導入はハードルが高い。中古住宅や空き家など投資してきたストックを有効活用できれば、新築・持ち家の一本足打法から脱却し、多様な選択肢を示すことにつながりそうだ。(安部大至)
持ち家政策
新築住宅の購入を促す戦後日本の住宅政策。住宅取得を望む中間層への金融支援を中心的な手段とした。一般家庭の数年分の年収にあたる住宅購入を可能にするため、政府が住宅金融公庫を通じて長期・低金利の住宅ローン融資を行った。
原武史・明治学院大学名誉教授は「1950〜60年代に建設された団地には革新政党の支持層が多く住んでいた」と指摘する。自民党政権には、中間層を育成して保守政治の安定を図る狙いもあった。
高度成長期以降は景気対策の側面が強まった。70〜80年代は住宅金融公庫、90年代以降は民間金融機関が中心となって住宅ローンの融資を拡大し、住宅需要を喚起した。税制面でも住宅ローン減税などで新築住宅の購入を優遇した。」
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