日銀植田総裁、インタビュー。2024年11月28日

日銀の植田和男総裁は、2024年11月28日、日本経済新聞の単独インタビューを受けたのですが、その内容は以下の通り。
記事
2024年11月30日付日経記事「植田氏一問一答、非伝統的政策「利下げの代替にならず」によれば、
「日銀の植田和男総裁は28日、日本経済新聞の単独インタビューで、量的緩和といった非伝統的金融政策は「普通の利下げの完全な代替にはならない」 との見解を示した。主なやりとりは以下の通り。
――市場は次回12月の金融政策決定会合や2025年1月会合での利上げを織り込み始めている。追加利上げの可能性は。
「我々の経済・物価の見通し通りに経済が推移して、特に見通し期間(24〜26年度)の後半に基調的な物価上昇率が2%に向けて着実に上がっていく、そういう自信というか確度が高まれば、適宜のタイミングで金融緩和度合いを調整するということだ」
――利上げ判断へチェックすべき指標は。
「なかでも大事なのは賃金動向と、賃金の価格への転嫁の動向だ。価格への転嫁を支えるには経済、特に消費の強さが必要だ。それ以外の変数も全て見る」
「24年の強い春季労使交渉(春闘)の結果が、毎月勤労統計に予想通り反映されている。所定内給与は2.5〜3%の間にあり、長期的に2%の消費者物価指数(CPI)上昇率と、だいたい整合的な水準にきている。大事なのはこれが継続するかだ」
――それは経済そのものの強さを確認することになる。消費環境は改善しているか。
「実質賃金はインフレ率と賃金上昇率の対比だ。財のインフレ率はまだある程度一時的な(上昇の)影響がある。これがもう少し下がれば今後の実質賃金は少し強くなり、消費をサポートしていくと考えている」
「賃金でいえば、25年の春闘がどういうモメンタム(勢い)になるか。それはみたい。そこは確認にもう少し時間がかかるが、それを待たないと金融政策が判断できないわけではない」
「賃金のサービス価格への反映についても確認したい。企業間取引では賃金が価格に反映される動きが出てきている。一方、消費者物価のサービス価格や、企業間取引でも大企業の系列に入っていない会社などではまだ弱いという情報もある。そこは丁寧にみていきたい」
――徐々に次の利上げのタイミングは近づいていると言えるか。
「経済データがオントラック(想定通り)に推移しているという意味では近づいていると言える。ただ米国の経済政策の先行きがどうなるか、大きなクエスチョンマークがある。当面、どういうものが出てくるか確認したい。例えば(トランプ次期大統領から)関税の話が出てきているが、どうなるか見極めが必要だ」
――しばらくゆっくり金利を引き上げていくことになる。利上げの天井でもある中立金利はどのあたりとみているか。
「非常に幅があり、絞り切れていない。26年度にかけての中盤から後半にかけて基調的な物価上昇率が2%くらいで推移すれば、その頃は(政策金利が)中立金利の周辺にあるとは言える」
「(緩和でも引き締めでもない実質金利を表す)スタッフ等による自然利子率の推計値はマイナス1%からプラス0.5%前後だが、過去のデータから算出したパラメーターを使った推計で、足元がどうかは難しい問題だ。パラメーターが変化しているかもしれない。世界の他の中央銀行もはっきり分かっているところはほとんどない。金利を上げ下げするなかで経済の反応を見て、少しずつ修正するプロセスをたどることになるだろう」
――日銀は1990年代後半から長期にわたって金融緩和を続けてきた。その効果と副作用をどうみるか。
「(過去25年の金融政策について検証する)多角的レビューを12月の決定会合で決めて公表する。過去30年程度、緩和方向に様々な手段を用いた。どういうふうに効き、効かなかったのか、できる限り定量的に捉えたい。市場機能や金融機関の収益に与えたかもしれない副作用も分析し、全体としての評価を出したい」
――円安が大きな副作用という見方がある。
「まず為替レートの水準とかその評価はなかなか申し上げにくい。中央銀行の立場からは、物価・経済見通しに為替レートがどういう影響を与えるかという点で考えるし、そこをポイントに政策運営する」
「例えば2010年代前半は円高が進んだ。デフレの時期だったこともあり、一層の円高は困るものになる。一方でインフレ率が2%を超え始めているときに一段の円安になれば、それは中央銀行にとってはリスクが大きい動きとして、場合によっては対応しないといけなくなる」
「為替と政策には一定の決まった関係があるわけではない。関係があるのは物価見通しと金融政策だ。為替レートはそのときどきによって違った影響を与えるものだ」
――そもそもインフレ率、賃金上昇率がゼロ%から2%に上昇すると、日本経済の潜在成長力は高まるのだろうか。
「インフレ目標を考えるときの基本的議論だが、ゼロ%のインフレではなく、2%のインフレ目標が実現したとすると、名目金利の水準はゼロ%インフレのときよりも高くなる。
その分だけ、経済が下向きになったときにインフレ率がゼロ%の時と比べて金融緩和の余地が生まれる。
(量的緩和などの)非伝統的な金融緩和手段はあるが、普通の利下げの完全な代替にはならない。
インフレ率が下がってしまうような不況時は普通の利下げができた方が良い」
「そのうえで潜在成長率等にプラスの影響があるかどうかだが、ゼロ%のインフレ率や賃金上昇率が続いてしまうと、コストをカットするしかないような企業マインドがまん延する。新しいイノベーションを起こし、それを反映して価格を上げていくという前向きの動きにつながりにくい。
(2%インフレになれば)理論的根拠がはっきりあるわけではないが、ある種のダイナミズムが生まれる可能性には若干期待している」
――米欧ではインフレが強まり政情不安すら生まれている。所得格差の問題やグローバリゼーションの反転といった戦後資本主義の行き詰まりはなぜ起きたのか。
「いろんな要因があると思うが1つだけに絞れば、テクノロジーの影響が大きいと思う。ICT(情報通信技術)や人工知能(AI)といった最先端の技術は、規模の経済というかウイナー・テイクス・オール(勝者総取り)となり、その度合いがこれまでの技術と比べて格段に大きい」
「よくある図式だが、横軸に技能の水準を、縦軸に労働需要を取ると、真ん中の部分がすごく沈んでしまう。こうした技術はグローバル化を志向し、中間層にマイナスの影響を与える。この20〜30年、分配の不平等が大きく拡大したとみる」
――政策的な解決手段はなんだろう。
「これは市場の失敗の一例なので、そもそも市場メカニズムで放っておいても解決できない問題だ。具体的な手段に踏み込むのは差し控えるが、財政政策だとか、場合によっては競争政策といった分野になると思う」
「分配の不平等が拡大しているところに海外ではインフレが起きた。
エネルギーや食料が上がり、インフレとリターンが連動しない資産である現金や預金といったものの保有割合が高い低所得者層にとりわけ打撃となった。これが不満の一つの要因になっていると思う。
中銀としては物価安定を目指すことで、発生しているかもしれない問題の一部を緩和または解決することになる」
――金融システムリスクをどうみるか。新型コロナウイルス危機時の財政出動や金融緩和があり、投資ファンドが企業に直接融資するプライベート・クレジットなどが台頭した。世界的なマネーのだぶつきがまだ残っているようだ。
「日本の金融システムでいえば十分な資本と安定的な預金、流動性へのアクセスを確保し、そんなに心配していない。米国では過去の利上げの影響もあって商業不動産の調整が続いている。現状はシステミックリスクに火が付くとは見ていないが、緊張感をもってみていきたい」
「ノンバンクは大きな問題だ。08年のリーマン・ショック以降、世界的に金融規制を強化した。その結果、米欧では金融仲介が銀行部門からノンバンクにかなりはっきりシフトした。
プライベート・クレジットなどのノンバンクは銀行のようにすぐにお金が引き出される構造になっていないので、システミックな問題にはなりにくいが、明確な規制もなく何が起こっているか見えにくいという不安がある。よくモニターしていきたい」
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